夕暮れの散歩
リードで繋がれた飼い犬は、軽快に飛び跳ねながら進んでいる。
今年の初め、祖母の家に行った時に毎回元気に出迎えてくれる犬、ボビーを連れてその日は散歩に出かけた。
見慣れた風景でも、犬との散歩の最中は違う景色に見えた。
山に囲まれ、田んぼが広がっている田園風景の中を、歩く。
意外にも車の通りはあるので、少しだけ気をつけながら、歩く。
ボビーはこちらをチラチラと見ながらも、時に走り出したり、時に草むらの中へと潜って行ったり、自由奔放でただただ進みたいように進んでいた。
ふと、目をつむってみた。
視界は真っ暗で、聴こえるのは風の音。
身体に伝わるのは、手に握っているリードの感覚。
リードは力強く自分を導いていた。時折自分を引っ張る感覚が無くなり、その度に自分も止まったりを繰り返す。
また引っ張られると、自分もその方向に歩いていく。
少しだけ聴こえる呼吸の音。道草の揺れる音。
視界は何処までも真っ暗で、道もわからない。
指標となるのは、リードの感覚だけ。
そんな事を繰り返しながら、1時間ほど散歩をしていた。
何と無く、その時間が楽しかった。
流石に長時間目をつむるのは怖くて、たまに目を開けたりもしたが、ボビーに手を引っ張られてるその感覚が、不思議と面白く、心地よかった。
……もし自分が視力を失ったらどうするだろう。
もし自分が聴力を失ったらどうするだろう。
もし自分が、明日死んでしまうのなら、世界はどう変わるのだろう。
誰かが導いてくれるだろうか。
何も変わらないかもしれない。
けど、ボビーとの散歩の時間は、自分がここにいる事を確かめさせてくれた。
そんなとある日の夕暮れ。